1. はじめに

Proof-of-Work(PoW)は、ビットコインやイーサリアムなどの主要な暗号通貨の基盤となる合意形成メカニズムであり、取引の検証と新規ブロックの生成に計算労力を要求することでブロックチェーンを保護します。しかし、マイニングによる莫大な経済的報酬は、主に特定用途向け集積回路(ASIC)による特殊なハードウェアの軍拡競争を引き起こしました。その結果、高価なカスタムASICを入手できる少数の主体がネットワークのハッシュパワーの不均衡なシェアを支配するマイニングの集中化が生じ、ブロックチェーン技術の分散化という理念を損なっています。HashCoreはパラダイムシフトを提案します:PoWをASIC耐性にするのではなく、汎用プロセッサ(GPP)を事実上のASICにするのです。

2. ASIC集中化の問題

中核的な問題は経済的かつアクセシビリティに基づいています。ASICの開発は資本集約的で時間がかかり、しばしば少数のメーカーによって秘密裏に行われます。これは参入障壁を高くし、マイニングパワーを集中させ、51%攻撃のリスクを高めます。ほとんどのユーザーにとって、競争力のあるASICを購入・運用することは非現実的であり、大規模な暗号通貨ユーザーベースと実際のマイナーの小さなプールとの乖離を生み出します。この集中化は、ネットワークセキュリティと分散化に対するシステミックリスクをもたらします。

主要問題の指標

参入障壁: 競争力のあるASICの高い資本コスト。

マイナー対ユーザー比率: 不均衡に少ないマイナーの数。

セキュリティリスク: 協調攻撃に対する脆弱性の増加。

3. HashCoreの設計思想

HashCoreは従来の問題を逆転させます。PoW関数を設計し、その後他の者がそれ用のASICを構築するのではなく、HashCoreは、誰もがすでに所有しているハードウェア——汎用プロセッサ(例:x86、ARM CPU)——がそのタスクに対して最適に効率的なハードウェアとなるように設計されています。

3.1. 逆ベンチマーキング

これが基盤となる概念です。インテルやAMDのようなチップ設計者は、多様な実世界の計算ワークロードを代表する標準ベンチマークスイート(例:SPEC CPU 2017)で優れた性能を発揮するようにCPUを最適化するために数十億ドルを費やしています。HashCoreは、これらのベンチマークワークロードそのものを模倣した擬似ランダム生成された「ウィジェット」からPoW関数を構築することでこれを活用します。したがって、SPEC向けに最適化されたCPUは、設計上、HashCore向けに最適化されていることになります。

3.2. ウィジェットベースアーキテクチャ

HashCore関数はSHA-256のような静的なハッシュではありません。それは実行時に動的に組み立てられる計算「ウィジェット」のシーケンスです。各ウィジェットは、主要な計算リソース(ALU、FPU、キャッシュ、メモリ帯域幅)に負荷をかけるように設計された汎用プロセッサ命令のシーケンスを実行します。ウィジェットの特定の組み合わせと順序は、ブロックヘッダー入力を基に擬似ランダムに決定され、ワークロードがハードウェアで事前計算されたり、簡単に最適化されたりできないことを保証します。

中核的洞察

  • 民主化: 既存の消費者向けハードウェアを競争力のあるマイニング装置に変える。
  • 活用された最適化: 数十億ドル規模のCPU研究開発に便乗する。
  • 動的防御: 実行時ウィジェット生成により、静的なハードウェア最適化を阻止する。

4. 技術的実装とセキュリティ

4.1. 衝突耐性の証明

論文は、ウィジェット出力を結合する基礎となるプリミティブ自体が衝突耐性を持つ限り、ウィジェットの実装に関わらずHashCoreが衝突耐性を持つことを形式的に証明しています。セキュリティはこの暗号プリミティブ(例:Merkle-Damgård構成)のセキュリティに帰着します。擬似ランダムなウィジェット生成により、全体の関数の出力は予測不可能で安全であることが保証されます。

4.2. 数学的基礎

PoWは、以下の条件を満たすナンス $n$ を見つけることと概念化できます: $$\text{HashCore}(\text{BlockHeader}, n) < \text{Target}$$ ここで、$\text{HashCore}(H, n)$ は以下のように計算されます: $$F( W_1( H || n || s_1), W_2( H || n || s_2), ..., W_k( H || n || s_k) )$$ ここで、$H$ はブロックヘッダー、$n$ はナンス、$s_i$ は $H$ と $n$ から擬似ランダムに導出されるシード、$W_i$ はウィジェット関数、$F$ は衝突耐性を持つ結合関数(ハッシュなど)です。ウィジェットシーケンスとパラメータは生成関数 $G(H, n)$ によって決定されます。

5. 分析と含意

業界アナリストの視点

5.1. 中核的洞察

HashCoreは単なるもう一つの「ASIC耐性」アルゴリズムではありません。それは既存のハードウェアエコシステムの戦略的取り込みです。真の卓越性は、数兆ドル規模の半導体産業が、ある種の問題——CPU——に対して完璧な「ASIC」をすでに構築していることを認識した点にあります。イーサリアムのEthashのようなプロジェクトはASIC耐性を目指してメモリハード性を追求しましたが、最終的なEthash ASICの開発が示すように、これは時間稼ぎの戦術に過ぎません。HashCoreのアプローチはより根本的です:PoWの経済的インセンティブを、世界のハードウェア製造の経済的現実に一致させます。それは分散化を、守るべき脆弱な目標ではなく、デフォルトの特性にするのです。

5.2. 論理的流れ

その論理は説得力のある単純さです:1)問題を特定する(ASIC主導の集中化)。2)根本原因を診断する(PoW関数は一般的なCPUワークロードとは異なる)。3)解決策の空間を逆転させる:ASICメーカーに勝てないなら、彼らにあなたのために働かせる。PoWを「CPUがすでに得意とすること」と定義することで、インテル、AMD、ARMからの継続的で大規模な研究開発投資を活用します。これは専門化に対する移動目標を作り出します;誰かが今日のウィジェットの組み合わせに対して静的な回路を設計する頃には、次のブロックの擬似ランダム生成は異なるCPUサブシステムを強調する可能性があります。この動的な複雑さは、特定のハードウェアへの過適合を防ぐためのニューラルネットワーク枝刈り技術におけるランダム化アーキテクチャなど、他の分野の概念を反映しています。

5.3. 長所と欠点

長所:

  • 真のアクセシビリティ: マイニングの障壁を標準的なノートパソコンやデスクトップのコストまで下げ、潜在的に数十億のデバイスが意味のある参加を可能にする。
  • 持続可能な分散化: マイニングの分布をデバイス所有の分布と一致させる。
  • 将来性: 将来数十年にわたるCPUアーキテクチャの改善(より多くのコア、新しい命令、より良いキャッシュ)から自動的に恩恵を受ける。
  • エネルギーの多様化: 単一の大規模ASICファームよりも、データセンターや個人デバイスにおける既存のアイドル計算サイクルをより効率的に利用できる可能性がある。
重大な欠点:
  • 性能差: GPPは、固定されたタスクに対しては、目的構築されたASICよりも常に絶対的に効率が劣ります。問題は、ドルあたりの性能とアクセシビリティのトレードオフがそれだけの価値があるかどうかです。初期のハッシュレートは現在のASICネットワークよりも桁違いに低くなり、コミュニティの大きな賛同と、セキュリティのための新しい経済モデルが必要となります。
  • 新たな集中化のベクトル: リスクはASIC所有から、クラウドコンピューティングリソース(AWS、Google Cloud)の支配へと移行するリスクがあります。悪意のある行為者は、短期間の攻撃のために安価に大規模なCPUファームをレンタルする可能性があり、これは資本集約的なASICでは実現が難しい問題です。
  • 実装の複雑さと検証: 動的に生成される複雑なワークロードは、脆弱性や合意形成のバグを導入することなく、異なるノード間で正しく実装し検証することがより困難です。SHA-256の優雅な単純さと対比してください。
  • 他のハードウェアの軽視: 広く普及しており強力なGPUは、主要なターゲットではありません。GPUワークロード向けに最適化されたHashCoreの亜種が出現し、専門化のサイクルを再開する可能性があります。

5.4. 実践的洞察

ブロックチェーン設計者や暗号経済学者にとって、HashCoreは必須の思考実験です。それは「労力によるセキュリティ」が本当に何を意味するのかを再評価することを強います。それは生の、絶対的な1秒あたりのハッシュ数についてなのか、それともそのハッシュパワーの分布についてなのか?後者は検閲耐性にとってより重要であると言えるでしょう。

提言:

  1. ハイブリッドアプローチ: 新しいブロックチェーンは、最大限に分散化されたマイナーベースを立ち上げるために、起動時にHashCoreのようなPoWを真剣に検討すべきであり、後で他のメカニズム(例:Proof-of-Stake、PoS)へ移行または組み合わせる可能性があります。
  2. クラウドリスクの軽減: プロトコル設計は、初期のPoSシステムにおける「nothing-at-stake」問題から学び、より長いエポック時間やボンディング要件など、短期レンタル攻撃に対する抑止力を組み込まなければなりません。
  3. 標準化と監査: 暗号コミュニティは、ウィジェットライブラリと生成関数を重要なセキュリティコンポーネントとして扱い、暗号プリミティブと同様の厳格な監査の対象とすべきです。
  4. 経済モデリング: セキュリティが集中した資本ではなく、低電力マイナーの分散した基盤から導かれる新しいトークノミクスモデルが必要です。これにはブロック報酬や取引手数料の分配の再考が含まれる可能性があります。
本質的に、HashCoreはSHA-256の単純な代替品というよりも、次世代の許可不要で真に分散化されたネットワークのための基礎的な哲学です。その成功は、技術的な優雅さだけでなく、より回復力があり公平なマイニングエコシステムを育成する能力にかかっています。

6. 将来の応用と方向性

HashCoreの背後にある原則は、暗号通貨マイニングを超えて広がります。

  • 分散型物理インフラストラクチャネットワーク(DePIN): HashCoreは、汎用計算リソース(例:レンダリング、科学計算)の共有を促進するネットワークを保護するために使用でき、その作業自体が有用であり、PoWがネットワークを保護します。
  • 適応的Proof-of-Useful-Work: ウィジェットは、チェーンを保護する副産物として、検証可能な有用な計算(例:タンパク質フォールディング、数学的問題解決)を実行するように設計でき、「Proof-of-Useful-Work」のビジョンに向かって進むことができます。
  • マルチアーキテクチャサポート: 将来のバージョンでは、異なる普及アーキテクチャ(モバイル向けARM、新興IoT向けRISC-V)向けに最適化されたウィジェットスイートを含めることができ、異種混合だが公平なマイニング環境を作り出します。
  • ゼロ知識証明との統合: 一部のウィジェットシーケンスの複雑で並列化不可能な性質は、zk-SNARKsと組み合わせて、行われた作業のコンパクトな証明を作成するために活用でき、軽量クライアントのためのより軽い検証を可能にします。
主な課題は、複雑さ、セキュリティ、検証可能性のバランスを取ることです。未来は、新しいブロックチェーンプロジェクトが安全に採用できる、「ベンチマークに着想を得た」ウィジェットの標準化され、十分に監査されたライブラリを作成することにあります。

7. 参考文献

  1. Georghiades, Y., Flolid, S., & Vishwanath, S. (年). HashCore: Proof-of-Work Functions for General Purpose Processors. [会議またはジャーナル名].
  2. Nakamoto, S. (2008). Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System.
  3. Back, A. (2002). Hashcash - A Denial of Service Counter-Measure.
  4. SPEC CPU 2017. Standard Performance Evaluation Corporation. https://www.spec.org/cpu2017/
  5. Buterin, V. (2013). Ethereum White Paper: A Next-Generation Smart Contract and Decentralized Application Platform.
  6. Dwork, C., & Naor, M. (1992). Pricing via Processing or Combatting Junk Mail. CRYPTO '92.
  7. Zhu, J., et al. (2017). Unpaired Image-to-Image Translation using Cycle-Consistent Adversarial Networks. ICCV 2017. (CycleGANは、HashCoreの汎用ハードウェア向け設計と同様に、汎用問題領域向けに設計されたフレームワークの例として).